映画『音楽人』公式ブログのウェブリブログ版始めます。

こちら、映画『音楽人』の原作の森綾著のフォトブログ小説『音楽人1988』のサイトなのですが、こちらをお借りしまして、映画『音楽人』公式ブログのウェブリブログ版を開始したいと思います。 更新するのは、映画『音楽人』 プロデューサー2号の世田谷のプロデューサーです。 映画『音楽人』公式ブログのAmebaブログ版は、先行して、こち…

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〔60〕夢のゆくえ

詩夫は「たぶんここじゃないかな」と、扉を示した。 今日は大きなスタジオで練習しているらしい。 扉を少し開け、藍はなかをのぞいた。 蒼に気づかれないように。 しかしその背中で「あっ」と小さく叫んだのは詩夫だった。 「何やってんだー、あいつ」 詩夫が見つけたのは自分の娘、詩音だったのだ。 そのまなざ…

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〔59〕再会

翌朝、藍はいつもどおり陽一郎と蒼のためにパンを焼いた。 「蒼、今日も遅いの?」 「しばらくマジで練習かな」 蒼はケータイを見ながら答えた。 「ふうん。マジでねえ」 二人を見送ると、藍は気合を入れて化粧をした。 とはいえ40にもなれば、気合を入れるのは下地とファンデーションまでだ。 下手に目元をつくるとや…

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〔58〕昔話

藍はソファに横になった。 目を閉じた。 この間は、蒼によけいなことを言ってしまった。 「好きだった人」…  「ギターを作ってた人」。 詩夫のことだ。 別に詩夫と何かあったわけでもない。 何かあったわけでもないから「好き」という思いはきれいなままなんだろうか。 好きだった、と思う。 ただそ…

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〔57〕各務家のリビングで

ポメラニアンのレオが走りよってきた。 藍は革のバブーシュの先でちょっといじわるをしたが、すぐに抱き上げた。 「もう20年だって」 レオに話しかけ、20年前のことを思い出す。 デビューが決まってからは、短大の卒業準備とも並行して忙しかった。 おなかの子どもが安定期に入る秋頃からレコーディングは始まった。 横山は…

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〔56〕降ってきたデビュー

藍が体の異変に気づいたのは、高田馬場からの帰り道だった。 電車のなかで吐き気がした。 あわてて途中下車した。 ひょっとして… という気持ちは、次の日、町の産婦人科の医者が明らかにしてくれた。 「2ヶ月ですね」 「あの… そうすると、いつ産まれるんですか」 「3月ですね」 「3月ですかー」 「学生さん?」 …

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〔55〕Sing and Run

久しぶりに来る高田馬場は、大学1年生と見られる若者たちがいっぱいいた。 藍はスキップしそうに駅の反対側、さかえ通りを歩いた。 神田川までくると、懐かしく思った。 ついこの間見た景色だけれど。 ここ1ヶ月半くらいの間に、いろんなことがあった。 コンテストでの最優秀ボーカリスト賞。 「藍気流」の解散。 記理…

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〔54〕取り戻せた友情

陽一郎は人事異動で編成部に配属された。 それはけっして左遷ではなかった。 編成部は局の脳の中枢のような部署だ。 そこに配属されることは会社側が各務陽一郎を買っていることの表れのようにも見えた。つまり種田のスキャンダルと各務陽一郎との無関係を、会社側は理解している。 そういう意味に見えた。 しかし直接メリットのなくなった…

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〔53〕つないだ手と手

「ああ、おなかすいた」 明け方、少しまどろんだ後に藍はつぶやいた。 陽一郎も眠りは浅かったようだった。 片目をうっすら開けると、鎖骨の上に載っていた藍の顔を覗き込んだ。 「カップラーメンしかない」 「それでいいよ」 「一個しかない」 「半分ずつしよ。つくろっか」 「いや、ぼくがやる」 陽一郎は藍から体を離し…

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〔52〕したことのないキス

陽一郎は両手に白いビニール袋を下げて帰ってきた。 中身はチューハイやビールだった。 しかもすでにややふらついていた。 行ったことのない新宿の立ち飲みバーでメーカーズマークをロックで4杯飲んだ後だった。 それでも、マンションのドアの前に捨て猫のように寝ているのが、藍だとすぐわかった。 陽一郎は顔をゆが…

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〔51〕コンクリートの上で

藍は路面電車の駅まで走った。 電車を乗り継ぎ、表参道で降りた。 そこから西麻布まで、また走った。 イッセイ・ミヤケの前から根津美術館の脇を抜ける。 陽一郎のマンションまでは坂道だ。 坂道をくだった右側にある、白いマンションの前で、足を止めた。 しばらく肩で息をしていた。 4階建てのマンションは階段し…

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〔50〕最後のチャンス

久しぶりにギターを触り始めた藍は、日曜日もずっと曲を練っていた。 月曜からは学校が始まるので、夕方まで触れない。 そう思うと、初めてギターを手にしたときのように、夢中になって弾いた。 「スターさん、お電話よう」 いつのまに部屋に入ってきたのか、耳元で母親が叫んだ。 「うわっ。もう、びっくりするぅ」 「だって気づか…

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〔49〕詩夫の言葉

陽一郎はしばらくぼう然としていたが、受話器を取り直した。 そしてチノパンのポケットから小さなアドレス帳を取り出すと、番号をプッシュした。 2コールで女が出た。 「もしもし水野です」 「各務と申しますが、詩夫さんはいますか」 「お待ちください」 ウタオ、各務さんだって、という声のあとに、詩夫はすぐ出てきた。 …

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〔48〕スキャンダル

煙草の吸殻がアルミの灰皿からあふれていた。 飲みかけの缶コーヒーは床に置かれたままだ。 日曜日も陽一郎は出社していた。 正確に言えば、VTR部分のライブを編集するのに、昨日の夜から徹夜だった。 藍に電話をしようとしたが、また留守電になっているだろうとあきらめた。 このまま誤解がとけないまま、二人は終わっ…

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〔47〕「Call my name」

家につくやいなや、藍はバスタオルよりも先にギターを手にした。 チューニングし、コードを探した。 近くにあったノートをちぎり、生まれたての詞を書き込む。 「Call my name ぼくの名前を Call my name どうか呼んでよ 人は皆ひとり  さまようなかで 出会えたこと  そ…

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〔46〕傘の向こうに

人の波に押し出されるように、藍と詩夫は出口の近くまで来ていた。 「ほんとに会っていかなくていいの、あゆみさんに」 「ああ。いいんだよ」 詩夫は照れくさそうに言った。 「オレ、そういうの、苦手なんだ」 藍はその横顔をじっと見つめた。 詩夫という人のやさしさを見たような気がした。 そうして、そのやさしさにできれ…

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〔45〕窓

三軒茶屋は昔っぽい町だった。 商店街や飲食店街がいくつかある。 どう見てもさびれた小さなアーケードもある。 うなぎ屋。豆腐屋。 ケーキ屋。アウトレットショップ。 懐かしいものと今っぽいものが混在する。 人が人の顔を見てものを売ったり買ったりしている。 2駅向こうの渋谷とはまったく違う。 近くに大学がいくつかあるの…

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〔44〕恋に似た思い

それから数日の間に何度か陽一郎からの電話があった。 藍は居留守を使った。  「ワダエツが来週Kレコードのプロデューサーとの顔合わせをセッティングしたいと言ってるんですけど」 その留守電のメッセージにも、折り返し電話をかけ直さなかった。 陽一郎に対して怒っている気持ちもあった。 それよりも、自分の気持ちがよくわからなかった。 …

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〔43〕幸枝の願い

藍の新しいギターはだんだんとその形になっていっていた。 「早いねー、詩夫ちゃん。いつ作ってんのよ」 げた顔のクラスメイトに声をかけられても、詩夫はギターとやすりから目を離さない。 今度はいきなり肩に寄りかかられて、詩夫はむっとして言った。 「やめろよ。削り過ぎたらどうすんだよ」 「あ。すまんすまん」 げた…

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