〔60〕夢のゆくえ

詩夫は「たぶんここじゃないかな」と、扉を示した。 今日は大きなスタジオで練習しているらしい。 扉を少し開け、藍はなかをのぞいた。 蒼に気づかれないように。 しかしその背中で「あっ」と小さく叫んだのは詩夫だった。 「何やってんだー、あいつ」 詩夫が見つけたのは自分の娘、詩音だったのだ。 そのまなざ…

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〔59〕再会

翌朝、藍はいつもどおり陽一郎と蒼のためにパンを焼いた。 「蒼、今日も遅いの?」 「しばらくマジで練習かな」 蒼はケータイを見ながら答えた。 「ふうん。マジでねえ」 二人を見送ると、藍は気合を入れて化粧をした。 とはいえ40にもなれば、気合を入れるのは下地とファンデーションまでだ。 下手に目元をつくるとや…

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〔58〕昔話

藍はソファに横になった。 目を閉じた。 この間は、蒼によけいなことを言ってしまった。 「好きだった人」…  「ギターを作ってた人」。 詩夫のことだ。 別に詩夫と何かあったわけでもない。 何かあったわけでもないから「好き」という思いはきれいなままなんだろうか。 好きだった、と思う。 ただそ…

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